部下の退職が決まったとき、その手続きの管理をするのは、直属の上司であることが多いでしょう。
退職の旨を上層部に伝えたり、担当業務の引継ぎの段取りをつけるなど、やることはたくさんあります。
手続きの際にはトラブル無く終えて、円満退職としたいところです。
ここで揉めてしまうと部下から訴えられたり、会社から賠償請求したりなど面倒なことになります。
そこで今回は、社員が退職するときにはどのような流れをとるべきで、どのような手続きを踏むべきかということをまとめました。
部下を持つ上司であれば、部下の退職手続きをスムーズに進めることで、会社の人事からの評価もあがり、また、ただでさえストレスの溜まりがちな退職時の業務を、負担なく終えることができるでしょう。
また、自分自身が退職するときにどうしたほうがいいか、という点についても分かるようにまとめています。
目次
退職の意向を受ける際の注意点
まずは、退職の意思が固まった段階で、部下からその意思表示を受けるはずです。
「ちょっと相談があるのですが・・」と声をかけられたり、突然に退職願をあなたへ渡してくるかもしれません。
その際に注目するポイントは以下の3点です。
退職の話は時間を割いてじっくり聞く
会社にとって重要な人でも、そうでない人でも、退職に関する話は時間を割いてじっくり聞きましょう。
部下から「相談があるんですが」という声かけや、退職願を出されたときには、
- 1対1で落ち着いて話せる場所で
- 直属の上司に口頭で伝える
この2点を押えるのが基本です。
もし、直属の上司とのトラブルが退職の原因になる場合は、直接人事部や総務部に話をするというケースもありますが、そうではない場合は直属の上司が聞くべきです。
引継ぎや会社人事部とのやり取りの窓口は、その部署の長が行うのが最もスムーズであり、一般的にはその部下と一番信頼関係があるのが上長であるためです。
退職日の何日前までに申告すべきかは就業規則を参考に
部下の退職でしばしば問題になるのが「いつ辞めるか」という問題です。
「早く辞めたい」という部下と「少しでも長くいてほしい」という会社(上司)とでひと悶着起きることが多いものです。
正社員(契約期間に定めの無い社員)の場合
まず、退職日から何日前に言わなければいけないかという点については、会社の就業規則を確認しましょう。
そのなかに「退職日の何日前までに申告しなければならない」という記述があるため、それを参考にしましょう。
そのため、部下が「早く辞めたい」と主張してきても、「就業規則にあるとおり、1ヶ月前までに言ってくれないと、こちらとしても引継ぎや手続きで困るよ」と話すことができます。
なお、法律上は「2週間前に伝えれば辞められる」とされています。
もし円満に退職といかず揉めてしまうようであれば、就業規則よりも拘束力の強い、法律に則って交渉することも可能です。
また、「就業規則なんて関係ない、すぐに辞めたいんだ」という部下の場合は、法律の2週間前という内容をもとにして引き止めることもできます。
契約社員(契約期間に定めのある社員)の場合
この形態の社員は、基本的に「止むを得ない事情を除き、契約期間の途中でやめることができない」とされています。
そのため、会社に「止むを得ない事情」だと理解してもらう必要があります。
もし方便であったとしても、家族の介護などの「働くことができない事情」という理由で話す必要があるでしょう。
退職理由は個人的な理由のほうがよい
最も多い退職理由は職場の人間関係と言われていますが、実際に退職の意向を伝えるときに、上司や会社に伝える理由は「個人的な理由」が望ましいです。
例えば、
- 家族が病気のため介護が必要になった
- 自分のスキルアップのために転職したい
- 配偶者が転居しなければいけないのでそれについていく
というものです。
人間関係など、職場への不満を退職理由として会社に挙げると、会社としてはその不満の改善を条件に引き止めるものです。
あなたが上司の立場なら、もし部下が職場への不満を退職理由にした場合は、その改善案を出せると思います。
しかし、部下が実際に退職を言い出すときには転職先がすでに決まっていたり、決意が固まっていることがあるため、提案しても退職の意向を変えないことが多く、無駄な努力に終わりがちです。
また、その理由を上司が会社にそのまま挙げた場合は、その改善案の指示と引き止めを課してくることもあるでしょう。
そして、この手の約束は果たされないこともありますから、信用しないほうが無難です。
このように、会社として改善できる部分を退職の理由としてあげてしまうと、会社からの引き止めが起きます。
そのため、すぱっと退職したい場合は、退職理由は個人的なものにしておいたほうが良いでしょう。
あなたが上司の場合も、本人が職場の不満を退職理由にするならば、「他に理由はないのか」「その不満点を解消しさえすれば退職は思いとどまるのか」を事前に確認をとってから、改善案と引き止めをしたほうがいいでしょう。
部下から退職の意向を示されたときは、まず以上の点に注意して、会社上層部との取次ぎを行いましょう。
退職届けは後に揉めないためも必ず提出
部下の退職の意向を上司が会社に伝え、会社からも了承を受けたあとは、実際に何日付けで退職とするかを決めます。
このとき、いつを持って退職をするのかは、部下の希望と会社側の都合をすり合わせて決めます。
退職する本人として考えることは
- 引継ぎ期間をどのくらいにするのか
- 残っている有給は消化するのか
- 転職先にはいつから入社するのか
の3点です。
転職先と入社日が決まっている場合は、退職日をその前日にしなければいけません。
また、有給は在籍中に消化するものなので、退職日のあとは有給を消化できません。
そのため、
①引継ぎ期間→②有給消化期間→③退職日→④転職先への入社日
というスケジュールで考えなければいけません。
部下としてはこのようなスケジュールで退職日を希望してきた場合は、その希望をもとに会社としての都合のいいタイミングで退職日を決めるといいでしょう。
これらのスケジュールを踏まえたものであれば、後々もめません。
上司としては有給消化は義務なので、部下から求められた場合は従うしかありません。
しかし、有給消化のために引き継ぎ期間がなくなるようであれば、引継ぎを優先して出社するよう主張することは問題ではありません。
私自身も上司として、色々な部下の退職の手続きをしてきましたが、転職先の入社日が近くにあり、有給を全部消化すると引き継ぎ期間がないという場合は、有給の消化を諦める部下も多いものです。
上司としては、退職によって引継ぎなどで労力がかかるということを部下に理解してもらい、せめて有給よりも引継ぎを優先してくれと交渉する余地はあるでしょう。
そして退職日が決まると退職届を書いて提出します。
これは後から「言った言わない」の揉め事を避けるために必ず書いて提出しましょう。
会社としても、従業員が自己都合で退職した証明として保管したがるものです。
また、社員としても、「やっぱり引き継ぎが上手くいかないから退職日を延ばして欲しい」と言われても、提出済みの退職届をもとにして拒否できます。
なお、退職届のフォーマットは特に決まっていません。ネット上に転がっているフォーマットを利用して問題ありませんし、会社で専用のものを持っている場合もあります。
会社の人事に問合せ、フォーマットがある場合はそれを使用させた方がいいでしょう。
ただ、そのフォーマットで書かないといけないという法的な縛りもないため、本人が自分で作成してきた場合はそれを退職届として問題ありません。
有給消化についての注意点
部下の退職の手続きに際して揉めてしまいがちな有給消化ですが、そもそも会社によってその文化は異なります。
ブラック企業や中小企業だと、退職時に有給消化など一切考えず、残したまま退職するのが当たり前ということもあります。
また、労働者側の権利であるため、会社側からは有給について説明をしないことも多いです。
そのため社員としては有給についてのルールを知っておくべきですし、上司としてもその内容を把握しておくことで、揉めてしまうのを避けることができます。
有給の消化について把握しておいたほうが良い点が2つあります。
一度出した退職届は、社員の一存では撤回できない
双方合意した上で退職届を提出し、受理された場合は、確定のものとなります。
そのため、どちらか一方の意向だけでは変えられません。
退職日を決めたあとに、「有給を消化したい」と思っても、退職届を出してしまった後では退職日を伸ばすことができず、退職日以降に有給を消化することができません。
したがって、会社に退職届を提出する前に、有給消化をどうするかを決め、消化期間を踏まえた退職日を決めましょう。
買取は違法のため、双方の合意が無いと成立しない
よく「有給を買い取った」という話を聞くことがあるかもしれません。
実際部下からその希望がでたり、会社から「買い取りたい」という話がでるかもしれません。
しかし、有給の買取は違法です。有給休暇は本来、社員に休暇を与えるための制度であり、消化するためのものです。
双方が合意すれば問題はない(違法だからと言って、買取することで罰則が発生するものでもありません)のですが、片方から拒否できるものです。
有給の買取が成立する代表的な場合は、
- 社員から有給消化の意向を示されたが、
- 退職日めいっぱいまで引継ぎなどの業務をしてもらいたいため、
- 会社から提案して社員が承諾した
というケースです。
もちろん社員側から買取を希望して、会社が合意した場合でも成立します。
しかし、このルールを知らない部下が、何も考えずに買い取りを希望した場合、会社から拒否される場合もあります。
また、あなたが上司の場合はこのことも知っておきましょう。部下から強い口調で買取を求められたとして、それを拒否しても法的には問題ありません。
有給は日ごろから消化しておくのが理想的
以上のことを踏まえると、退職前に有給を残しておくのはハッキリいって「面倒くさい」と言えます。
退職日を決めるときに引継ぎの日にちとの調整をしないといけないし、買取は双方合意しないと成立しません。
「有給を消化したいけど引継ぎもしないといけない、でも転職先の入社日もある」なんてときには有給消化を諦めている場合が多いです。
また、上司に対して会社からも「なるべく有給を消化させるな」という指示が出ることもあるでしょう。
一番いいのは、「日ごろから計画的に有給を消化し、残った数日を最後に消化して終了」というパターンでしょう。(有給の消化が一般的ではない職場では、これもこれで難しいかもしれませんが・・)
転職先を決めることに自信があるなら、有給休暇をフル活用して仕事を辞める方法もあります。
詳しくはこちらの記事にまとめています。
必要書類を発行してもらうよう依頼
部下が退職することが確定したら、手続きに必要な書類を発行してもらうよう会社に依頼します。
体制が整っている企業であれば、退職者本人が分かっていなくとも自動的に用意してくれるものです。
しかし、退職後に手続きするのは自分なので、どのような書類があり、それはどのように利用するのかということは知っておいたほうがいいでしょう。
また、上司としても部下に質問されたときに答えられるようになっておけば、より手続きがスムーズになります。
離職票
退職した社員が、失業給付金の受給を申請する際に、ハローワークに提出するための書類です。ワーローワークへの申請は社員本人が行います。
社員がすぐに転職する場合は、失業給付金を申請しないため発行は不要です。
源泉徴収票
源泉徴収票には、所得税の支払に必要な情報が載せられています。毎年、年末に行う年末調整に必要です。
転職した場合は転職先に提出する必要があります。なお、転職しない場合は個人で確定申告を行いますが、そのためにも必要です。
つまり、どちらにしろ源泉徴収票は会社から発行してもらう必要があります。
雇用保険被保険者証
雇用保険に加入しており、保険料を支払っていることを証明する書類です。
これは失業給付金の受給を申請する場合にハローワークに提出する他、転職する場合に転職先に提出します。
健康保険資格喪失証明書
会社を退職し、すぐに転職しない場合は、社会保険を任意継続するか、国民健康保険に切り替えるかのどちらかを選択します。
このとき、国民健康保険に加入する場合は、健康保険資格喪失証明書が必要になります。
厚生年金基金加入員証(該当者のみ)
会社が厚生年金基金に加入している場合は、この書類を発行してもらうことで、厚生年金基金の運営元への請求ができるようになります。
ちなみに、国が運営している「厚生年金」とは違い、「厚生年金基金」は企業が任意で加入するものです。
そのため退職する会社がこの基金に加入していない場合は発行されません)
年金手帳
これは公的年金制度の加入者であることを証明する重要な書類です。
本来は個人に支給されるものですが、年金支払の管理のために勤め先の会社で預かっていることが非常に多いです。
本人としては会社に預けているという認識が薄いため、ついつい忘れがちになりますが、退職の際には返してもらうよう依頼しましょう。
このように、退職時に確認が必要な書類は種類が多く管理が大変です。
こちらのサイトが詳しくまとめられています。
退職時には、これらの書類から自分に当てはまるものを、会社から渡してもらうよう依頼しましょう。
引継ぎは退職後のトラブルを避ける重要なポイント
部下の退職の意向が会社とも合意が取れれば、必要な手続きをしつつ、あとは引継ぎを行うことになります。
退職の引継ぎについては、
- 取引先への引継ぎ
- 社内の引継ぎ
の2種類あります。
取引先への引継ぎ
まず、取引先への引継ぎは、退職の前にメールもしくは訪問で行います。
関係が浅い場合はメールにて、部下本人から、自分が退職する旨と後任担当者の紹介を行います。
関係が深く、取引額も大きい場合は直接挨拶をしましょう。
その時は部下本人と後任担当者の2人で挨拶する場合もあれば、上司であるあなたも同席の上で話をするというパターンも考えられます。
「挨拶が部下たちに任せられそうか」という点と、「取引相手の重要性」から判断しましょう。
社内の引継ぎ
次に、社内の引継ぎについては、まず引き継ぎ先を決める必要があるでしょう。
後任となる社員を補充し、退職する部下の業務をすべて引き継ぐというパターンと、補充をせず、何人かの既存社員に分担させるという場合があります。
引き継ぐ際には、退職する部下に業務のマニュアルを作らせるのが理想です。
一度作ってしまえば、同じように引き継ぐときに、より効率的に引き継ぐことができます。
社内での引き継ぎが上手くできないと、後任の社員が混乱して業務が滞ります。
場合によっては、退職した部下に連絡を取り呼び出すというパターンもあります。
お互いに面倒くさいことになりますので、上司側がきっちり引継ぎをする機会を設け、漏れなく引継ぎを行うことが重要です。
退職時に揉めてしまうのは互いにとってマイナス
以上のように、部下が退職するときの手続きとして必要なことをまとめました。
退職はネガティブな理由であることが多く、退職する部下と会社の間で揉め事が起こってしまいがちです。
退職時に揉めてしまうと、引継ぎをおざなりにされたり、やめた後に悪評を立てられたりする危険性があります。
また、揉めてしまうことは部下にとってもいいことではありません。
会社から損害賠償をされたり、必要な書類の発行を後回しにされるということもありえます。
部下の直属の上司としては、そういうことにならないように調整することが大切でしょう。
そのためにも、ここにまとめた内容を押さえ、スムーズに部下の退職手続きを行ってください。