部下が退職してしまうとき、上司としてまずそれを止めることを考えるべきですが、「部下の退職が自分の責任になるのか」が気になることは多いと思います。
本来は自分の責任だとかそんなことは関係なく、「部下の退職を防ぐためにどうすべきか」を最優先で考えなくてはなりませんが、上司も人間です。
自分の責任問題になるかどうかは、どうしても気になってしまうものです。
部下が辞めてしまうことで、引継ぎの手間や戦力ダウンの負担を受けるだけでなく、上司であるあなた自身の監督責任を問われるとなると、ダメージは2倍になるものです。
部下の退職を止める方法については以前の記事でご紹介しました。
また、実際に退職してしまうとなった場合はこの点に注意すると良いでしょう。
部下の退職についてはこれらの記事を参考にして欲しいですが、今回は「部下の退職が上司の責任問題なのか」という不安についてまとめてみたいと思います。
目次
退職の責任問題は、企業文化によって大きく変わる
部下の退職が上司の責任として問われるかどうかは、企業の文化によるところが非常に大きいと思います。
離職率が高く、大量採用・大量退職が当たり前という会社であれば、退職そのものに対してそれほど責任を追及されないかもしれません。
一方で離職率を上司の評価基準として採用している場合は、部下の退職=上司の責任という評価になるでしょう。
また、会社内で頻繁に発生する理由で退職をするならば、原因は会社の仕組みにあると感じられるものです。
しかし、あまり起きない理由で退職となった場合、その上司固有の問題なのではと考えられる可能性もあります。
このように企業の文化や背景によって責任問題になるかどうかはかなり異なります。
しかし、一般的には退職の理由によって上司の責任度合いが異なるものです。以下に、よく起こる退職理由と、上司の責任度はどの程度かを考えてみたいと思います。
①結婚・出産・介護・その他家庭の事情
責任度:☆
結婚や出産や、配偶者の転勤のような理由まで、ようは家庭の事情による退職がこれにあたります。主に女性がこのような理由で退職するケースが多いと言えます。
基本的に職場環境には不満がないはずなので、この理由で退職してしまう場合に上司の責任が問われることは多くありません。
ただし会社によっては「結婚=退職」ではなく、産休・育休をとり復帰するという文化にも関わらず結婚が原因で退職してしまう場合は、上司の責任が問われやすくなります。
②やりがいがない、会社に不信
責任度:☆☆☆
若手の社員に多いですが、「仕事をしていてもつまらない」「自分の成長にならない」というやりがいを感じないパターンや、「会社の方針や自分の待遇に納得できない」というパターンです。
この場合は直接上司に責任があるとまでは言えません。直接の原因が会社の組織体制であるからです。
しかし、会社と部下の間に立つ上司の振る舞いによってやりがいを見出させたり、上司が会社の方針を理解しやすく噛み砕いて部下に伝えることはできるものです。
そういう意味では、上司の振る舞いによって退職を防ぐこともできると言えるでしょう。
そのため、この理由で退職となる場合は会社から「上司の力不足」と評価される可能性があります。
③人間関係・上司と合わない
責任度:☆☆☆☆☆
職場の人間関係が悪くて働きたくないという理由や、上司の性格や言動が嫌で我慢できないという理由の場合がこれに当てはまります。
これはもう言い訳できないほど上司に責任があると判断されるでしょう。
実際、上司の性格や言動で部下から嫌われてしまうパターンは実に様々あります。
ポンコツ上司の5つのパターンと少しでも前向きになるための3つの考え方
内容がひどければひどいほど、また、会社の上層部が常識的であればあるほど、この理由で辞められたときには、上司の立場を脅かすほどの責任問題(降格・減給など)に発展する可能性があります。
もちろんこうした退職が発生しないように振舞うのが上司として最低限の務めといえます。
しかし、このパターンの難しいところは、部下が上司を貶めようとしてそういう理由を言ってくるケースもあるというところです。
このケースは、上司と部下の間に痴情のもつれがあったり、上司が感情的に叱ることが多かったり、という場合に起きる可能性があります。
そのため、無用なトラブルにならないよう注意が必要です。
特に、逆恨みされそうな雰囲気の部下には、信頼できる人を同席したうえで叱るとか、あらかじめ上の立場の人へ状況を説明しておくなどの根回しをする必要があります。
④本人の体調不良
責任度:☆~☆☆☆☆(状況による)
本人が肉体的、精神的に調子が悪くなり、今の環境で働き続けることが難しいと判断するケースです。
実際にはこの理由を使って退職を申し出ることが多いです(本当は違う理由であるが、波風立てずに辞めるために体調不良を理由にするということも多くあります)。
この理由で上司がどれくらい責任を問われるかは、体調不良になった背景によって大きく異なります。
まず、仕事が原因ではない体調不良の場合(プライベートで大怪我をした、大きな病気にかかってしまった)は上司のあなたに責任が追及されることはないでしょう。
責任度は星一つと言えます。
しかし、仕事が原因での体調不良の場合(激務による体調不良、ストレスによる精神疾患)は話が違ってきます。
会社の風土として激務・強いプレッシャーが当たり前で、体調不良者が頻繁に出るようであれば、同じ理由で一人退職者がでても上司のあなた自身への評価が下がることはあまりないと思います。
この場合は星2か3程度でしょう。
一方、あまりこのような理由で退職が出ないにもかかわらず、あなたの下で仕事をした結果体調を崩した場合は、上司としての責任を問われる可能性があります。
一人だけであれば、「たまたま部下の方が弱かった」と判断されることが多いですが、バタバタと続くようであればあなたの責任を問われることは間違いありません。
星4つレベルでしょう。
⑤部下が幼い
責任度:☆☆
勤務開始3日目で「もうダメです」と挫折してしまうような場合や、毎日1、2時間の残業に対して「やってられない」と嫌になってしまう場合です。
「社会人としてこれくらいの大変さはあるでしょ」と、世間一般の人が考えるであろうレベルにも耐えられない場合とも言えます。
本人から出てくる退職の理由は、一見②の会社不信や、③の上司への不満というタイプと同じになのですが、よくよく事情を聞くと、第三者から見て「これくらいは本人が耐えないとダメでしょう」と思われるようなレベルでも退職する、というケースがあります。
この場合、上司としてはフォローしないといけない面もありますが、どちらかというと本人の方に原因があると考えられるでしょう。
場合によっては「なぜこんな人間を採用したんだ」と人事の方にクレームをつけることも出来るかもしれません。星は二つです。
なお、このパターンの場合は、本人側に問題があるということを、いやらしくない程度に周りにアピールすることが重要です。
あなたの部下にも上司にも「そんな理由なら仕方ないね、本人側に問題あるわ」と理解してもらうと部下が抱える退職のショックや上司からの責めを和らげることが出来ます。
退職理由を偽らせる方法
以上のように退職の理由と上司の責任度合いをまとめました。
上司としては、辞めてしまうならば、せめて極力自分の責任を追及されないようにしたいと思うのが人情でしょう。私自身もかつてこのような考えをしていました。
実は、辞める部下との信頼関係が強くなっていると、部下の退職理由を操作し、上司に責任が及びにくくできる可能性があります。
これは実際にあったケースですが、以下のようなやり取りがありました。
===
部下「実は同業他社から引き抜きの話がありまして、待遇が今よりもかなり良く、前から経営の方針にも疑問があったのでこれを機会に辞めることにしました。」
上司「そうか・・どうしても考え直してくれないんだな」
部下「はい、申し訳ありません。しかし、あなたの下で働かせていただき、本当に勉強になりました。ここまでやってこれたのは上司であるあなたのおかげです。この件の責任が降りかかるのは非常に申し訳ないです。」
上司「気持ちは嬉しいが、今回の理由だと私が責められるのは間違いないと思う。実際部下を退職させてしまうので責任を負うべきだと思う。
まぁ責任を追及されないとしたら、『家族が病気になって、その介護のために今の環境では働けなくなった』という理由くらいじゃないとな」
部下「だったらその理由で話をさせてください!私は構いません!」
===
というやり取りで、退職理由をすりかえる話になりました。
本来は、②(会社に対する不信)に分類されるものでしたが、それを①(家庭の事情)の分類にすりかえるのです。
結局この上司は、理由をすりかえず本当の理由で話しを通したのですが、このようなやり取りで部下が同意してくれるならば、退職の理由をすり変えるということも可能なのだろうなと感じました。
「責任を問われにくい理由」を知ることが、生き抜くための武器になる
以上のように、企業の文化によって大きく異なりますが、退職の理由によって上司の責任程度にはバラつきがあります。
もちろん上司として責任を負うべき部分は責任を負い再発防止に努めなければなりません。
しかし、会社組織の中では色々な理不尽なことが起きます。
本当はあなたに責任がないのに、いつの間にか自分が責任を負わなければいけない目に遭うということも考えられます。そこで、多少ずる賢いノウハウを知っていても損はないでしょう。
まずは、「どんな理由だと責任を追及されにくいか」「どんな環境だと責任を問われないか」ということに敏感になり、そして場合によっては部下にやめる理由をすりかえてもらうということも出来るかもしれません。
もちろん人間正直が一番でしょうが、社会を生き抜く術の一つとして覚えておいて損はないでしょう。
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