部下が退職してしまわないか心配になるのは、管理職なら誰しもあることでしょう。
部下から退職を切り出された時には、すでに転職が決まっていたり、離職する意思が固まっているものです。
そのため、部下を退職させないためには、そもそも部下から退職を切り出されないような、いわば「予防」という考え方が非常に重要です。
では部下の退職を予防するためにはどうすればいいでしょうか。
簡潔に言うと、部下に「このまま今の環境で働き続ければいいんだ」と感じさせることです。
しかしこれを実現することは意外と難しく、上司からの積極的なアプローチが重要です。
そこで今回はこのような部下の退職を阻止するための取り組みについてまとめました。
目次
若い人には「やりがい」や「キャリア」を意識させる
部下の退職を防ぐために一番大切なことは、「このまま今の会社で働き続けていいんだ」と感じさせることです。
そもそも社員が辞めてしまう理由は、「今の環境で働き続けてはいけない」と感じてしまうことです。
そう感じさせないためは、まず働きすぎやストレスがかかり過ぎない環境なのが前提ですが、必要なのはそれだけではありません。
今の仕事のやりがいや、将来の展望を明確に意識させる必要があります。
特に若い人にとってこれは重要で、彼らは以前の高度経済成長期と違って年々給与が上がる環境ではありません。
つまり普通に毎日仕事をしているだけで、将来への希望が湧いてくるような環境ではないと言えます。
なにか思い通りに行かないことがあると「他の会社ではどうなんだろうか」と転職をイメージしやすい傾向があります。
そして、自分の将来の展望が見えないと、「この環境では自分は成長できないし、長く勤めていても無駄だ」と感じてしまいます。
そう感じさせないために、部下に対して、「君は将来はこのような仕事について欲しい、このようなポジションを任せたい」という展望を伝えるべきです。
既婚の部下は安易に退職をしない
なお、結婚した人や子どもがいる人は若い人とは違い、安定した生活を送ること自体が仕事を続ける最大のモチベーションとなる傾向にあります。
若い人とは違い、やりがいやキャリア形成を優先しないことが多いです。
私自身の話になりますが、小学生のとき、親に今の仕事についてインタビューするという課題がありました。
そのとき「もう一度今の会社に勤めたいと思いますか?」という質問を親にしたとき、即答で「いいえ」と答えられて驚いた記憶があります。
親がそんな仕事でも定年まで勤め上げてくれたのは、家族や子どもを支えるためだったと思います。
既婚者はこのような考えであることが多く、そのため「仕事にやりがいを感じないから辞める」「自分に向いていないから辞める」といった安易な退職は多くありません。
そのため、若い人に比べて退職のリスクは少ないものですが、だからと言って油断はせず、収入や人間関係など、それ以外の退職リスクに注意しましょう。
定期的な面談が退職予防につながる
このように、若い人や既婚者でリスクは異なりますが、どんな部下の退職も阻止するための一番効果的な方法は、個別で面談をすることです。
面談は直接の業務とは関係がないのでついつい敬遠してしまいがちですが、退職を防ぐという意味では効果的です。
普段から雑談をしている関係でも、何気ない会話の中では拾えない情報が拾えることも多いです。
そして面談の際には、以下の3つのポイントを押さえる必要があります。
普段の働きぶりを認めてあげる
まずは部下が普段の仕事で挙げている成果について振り返り、会社に貢献している点を改めて伝えてあげます。
そのあと現状の課題についても触れることも重要です。前回面談時から成長している点について伝えることも有効でしょう。
そして、今後部下がどのようなポジションについて欲しいか、どのように活躍してほしいかという今後の展望を、この面談の場で伝えることが重要です。
また、目に見えた成果を挙げているわけではない場合は、仕事に対する姿勢や周りへの気遣いなどについて評価してあげるとよいと思います。
今後のキャリアについて話す以外にも、成果でも姿勢でも何でもいいので、部下に対してプラスの評価を上司からしてやることが、本人の自信につながります。
仕事において本人が重視するポイントを知る
そしてここからが重要ですが、部下本人が仕事をする上で重視するポイントは何かを確認しましょう。
具体的には、仕事において以下の項目のうち、どれを重視するかをヒアリングするのです。
- やりがい
- キャリア
- 給与
- 出世(地位)
- プライベートの時間が取れること
- 希望する場所で働けること
だいたいこの中から、部下が何を重視するかの優先順位をつけてもらいます。
優先順位の高い項目については、今どの程度満たされているかをヒアリングします。
このとき、部下が重視するポイントが満たされていないとしたら、退職を考えていると思ったほうがいいでしょう。
なぜそれが満たされていないのか、改善するためにはどうすればいいのかを一緒に考えなければなりません。
このような相談には、あなた自身にその改善方法がわからないことも考えられます。
そういう場合は、それがわかる人に相談してみるということも有効でしょう。
たとえあなたにその答えがわからなくても、答えを見つけてくれようとする姿勢に相手は信頼してくれます。
不安・不満についてヒアリング
このような話をすることによって部下は前向きになりますが、それ以外にも職場でのトラブルに気をつけなければいけません。
そこで、今抱えている不安や不満がないかのヒアリングも重要です。
- 仕事上でうまくいっていないことはあるか
- 給与などの待遇で不満に思っていることはないか
- 人間関係でうまくいっていないことはないか
これらの点で困っていることはないかどうかを聞き、当てはまるものがあれば解決のためのアドバイスをします。
もちろん具体的に解決させることが一番なのですが、実際は簡単に解決できるものばかりではないと思います。
たとえ解決できなかったとしても、聞いてもらえて共感してもらえるだけで、気持ちの整理がついて前向きになる面もあります。
また、事前にそのような悩みを把握しておくことで、今後それが増大してしまわないようにリスク管理することもできます。
面談によって退職を予防できる理由
このように、ポイントを抑え定期的に面談をすることで、上司から自分の仕事ぶりを認めてもらいつつ、自分のキャリアについて考えることもでき、さらに悩みを共有することで、前向きに考えることができます。
というのも、上司に相談せずに部下だけで悩みを考え込んでしまうと、「自分には違う環境のほうがいいかも」とネガティブに考えてしまいがちだからです。
このような考えが強くなっていくと、部下は退職を検討し始めますので、定期的な面談がそれを防ぐことになります。
また、こうした面談によって、部下は「上司が自分に興味を示してくれている」と感じるようになります。
人には承認欲求(人から認められたいという気持ち)があります。
上司から承認欲求を満たされることで、部下のモチベーションは大きく上がりますが、その逆の場合はやる気はさがり、それが退職へとつながることもあります。
そして、このような面談を行うことで、部下が退職につながるような不安や不満を抱えていたとしても、その場で拾いやすくなります。
だいたい部下から上司に相談するときは、「辞めたい」と意思を固めるレベルになってからが多く、こうなってから止めるのはとても難しいです。
逆に、そこまで思いつめる前にその悩みを拾うことができれば、退職をとめることができるのですが、よほど信頼関係がないと事前に相談はしてくれません。
そこでこうした面談の機会があれば、部下が思いつめる前に悩みを拾うことができ、退職を阻止できる可能性が高くなります。
部下のキャリアや人生を思う心が退職を防ぐ
以上のように、部下の退職を予防するには日ごろからの行動が重要で、それには定期的な面談が最も効果的です。
面談を通じて本人を認めてあげ、将来を意識させ、悩みを共有することが重要でしょう。
そして、このような面談をする上では、上司は「部下が仕事を通じて幸せになってほしい」と願う心が大切になります。
その考えを持つと、自然と頑張りを認めてあげたり、これからの活躍を期待したり、悩みを聞いてあげたいと思うはずです。
このような言動ができれば、部下が退職する可能性は少なくなり、「辞めたらどうしよう」という心配からは解放されるはずです。